今まで見たことはあっても襲われたことは一度としてなかった。
でも、実際に襲われてみて、初めてその恐怖を知った。
学校へ送るわずか10分間の車内では、ゆめはぎゃ-ぎゃ-うるさかった。何が気に入らないんだか、せっかく作ってやったシートマットの上でもぞもぞ動き、頭は落ちる、痛いとわめく、運転に集中出来やしない。
でも、ある一瞬でぴたっと黙り込み、今度は
「ごわい・・・・ごわい・・」
とつぶやき始めた。
「ゆめ、何が怖いの?」
聞いたところで答えはない。あっちと指さすも、なんにも見えやしない。
今まで体験した車の中での見えない恐怖と言えば、学校のボロな公用車でゴキブリ・別名『黒い稲妻』(僕が命名)に襲われた恐怖くらいしかない。
もちろん、この車にそんな奴はいない。
ゆめのことだから、またあっちの世界の住人が見えたんだろう。
そういえば、こないだも家の近くまで来てフロントガラスにねこがいるって騒いでたなあ。
ああそうか、それで先日のお風呂に出た化け猫か。
でもまあ、ゆめの目に何が見えてたところで僕には見えないし、なにより今は太陽輝く昼間だし、うるさくなくなったからいいやと気楽に考えていた。
ゆめのあとはたったの言葉の教室。
終了後に保育園に送り届け、次はけっとの予防注射。
今日はもう熱はないから、多少鼻は出てるけど注射してもらえるかな、してほしな~とか思いつつ、車を走らせていたとき、唐突にそれが視界に入った。
こ・こいつか、ゆめが怖がってた奴は・・・・
助手席の窓近くにうっそりと立っていたそいつは、でかかった。
こんなでかいの、今まで見たことない。
全開の窓から風がビュービュー巻いてるにもかかわらず、そんなこととは関係なしに、そいつの体は、ゆらりゆらりと揺れていた。
こんな奴が近くに見えてたんなら、そりゃーあのゆめの尋常じゃない恐がり方もうなずける。
・・・僕も、怖い。はっきり言って、怖い。
こっち来るなよ、そこにいろよと心の中で叫びつつ、早く病院へ着けとばかりにアクセルを踏んだ。
と、ひょえーーー
ちょっと近づきやがった!
彼我の距離、およそ40cm
もうはっきり言って至近だよ!
僕はね、今までだってずいぶん怖い体験してきた。
野宿に行った先で、なんにも見えないんだけど見られてる恐怖に耐えきれず、せっかく広げた荷物を全部バイクに積み直して逃げ出したことは一回や二回じゃない。
見られてる圧力を感じたことさえあった。
追いかけられて他のか、行く先々、停まる場所場所で同じ圧力、恐怖感を感じて、結局真夜中過ぎまで走り回ったこともあった。
僕は引きよせる能力は持ってても見る能力を持ってないから、そういうときはとにかく逃げるしかないのよ。
でも今回は、自分が運転してる車の車内。逃げ場はない。ちょっと停めようにも、受診時間が迫ってるからそれも出来ない。
げ、また近づいた!!
彼我の距離、30cm
もう指呼の間だ!!!
一番近い左腕の肘あたりが、チリチリした。
すげー圧力を感じた。
こうなったら仕方がない。
僕はその時点で持ってたすべての勇気を振り絞って、手近にあったティッシュ数枚を固く束ね、全力で窓の方へ仰いだ。
パタパタパタ・・
体はでかくても、やっぱ重さはほとんど無いんだろうなぁ。
車がちょっとバウンドした拍子にあっけなく車外へ吸い出されていった。
一応、勝った。
病院についてから点検したけど、車体に張り付いてるとかいうこともなかった。
今でも、あのゆらりゆらりと揺れて戦闘態勢を取ってた姿がありありと目に浮かぶ。
あれは、絶対に襲う気だったと思う。
目が合ったし・・
人を襲うことって、あるんだなあ。
初めて知ったよ、狩られる恐怖・・・
いくら肉食とはいえ、人間を獲物と思うのは間違ってるだろう。
そもそも獲物にしてはでかすぎるでしょう、ええ?
カマキリさんよ・・・
僕は足が5本以上ある生き物は、蜘蛛以外絶対に受け付けないんだからさー
しかも目測で体長15cm以上って、でかすぎだよ・・・・
僕の引きよせる能力は、昆虫にも有効だったのかぁ・・・
最後の落ちを読むまで、怖かったぁ~…(;_;)
ゆめパパさん、語りが上手すぎます!
15cmっていうのは
強烈なブキミさですね(汗)
ティッシュ越しに触った胴体の
ブヨブヨ感を生々しく想像してしまって
けっこうきましたネ(苦笑)
1匹でよかったです
そんなのが10匹以上
ウヨウヨしているのを想像したら‥(大汗)
虫は大小にかかわらず
結局
気色が悪いものですね
美和さん、してやったり・・・
失礼しました~
まこりんPMさん、触ってないない、そんなのむりむり。
だて、でかすぎる上に、カマを構えてもろ戦闘態勢なんだもん。
両カマを胸の高さに構えて、体を左右にゆらりゆらりとゆらす姿、じっと正眼で僕を見据えたその目つき、摂って喰う!という決意に満ちあふれてました!
あれこそまさに、狩られる恐怖そのもの!!
さわれません、そんな奴には、とてもじゃない。
ティッシュの短さが、とっても心細かったですよ~
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