あばよ

今日は燃えるゴミの日で、衣替えで出た要らない洋服を大量に捨てる。
量り売り・・・じゃない、量り買いしてくれる店まで持ってけば買い取ってくれるが、よっぽど持ってってもいくらにもならん。
それはお袋の時でよ~~~っくわかった。
持ってく労力とガソリン代にあわないので、素直に捨てる。


選別の際、ゆめ用の服もたくさんあった。
でも、着せてあげられない服が多かった。
でっかいボタンが付いてたり、でっかい襟が付いてたり、太い糸で織ってあるから生地の内側の凸凹が大きかったりしてて。

いつも寝たきりのゆめさんにとっては、でかいボタンは危険。
ずっと体のどこかに押し当てられてたら痛くなっちゃう。
でっかい襟は、呼吸器の邪魔。
内側の生地が凸凹してるも、きっと肌が痛くなる。

そしてゆめは、そういうことが起こってても、言葉で訴えることが出来ない。

なにしろ元から語彙が少ない上に、今は声を失ったからね。
多少話せるけど、暑いも寒いも全部「痛い」か「暑い」でしか表現しないし。
身につけるモノは全部、僕が見て、触って、確かめてる。
これ以上彼女に、余計な辛さを与えるわけにはいかん。
そういう服は、全て廃棄するしかない。



かわいい服もたくさんあった。
きっと似合うだろうという服もたくさんあった。
もう背が高くなったので、ママのお古も着られるんだが、着たら素敵そうなのもたくさんあった。
でも、全部捨てる。
ゆめには”かわいい”よりも、安全・安心、こっちの方が優先だから。




呼吸器を付けるようになった際、クビが詰まってると着せられないからってわざわざV字にカットして縫った奴もたくさん出てきた。
襟を切り取ってフラットに改造したのも出てきた。
それらはもうサイズが小さくて着れない服だ。
結構真剣に縫って苦労したのを覚えてるが、これも全部捨てる。
こんな服を着なくてはならなくなったのは、僕のせい。
僕が、溺水なんかさせてしまったから。
おかげで、かわいいデザインのことごとくが着られない服になった。
以前なら、精神科に通い始める前なら、こんなことを考えるだけでフラッシュバックしてた。
いまは、ようやく乗り越えられた。


ゴミ袋に全部詰めたら、保管用の衣装ケースがいくつか、きれいに空になった。
全部捨てる。
僕の感情も含めて、全部捨てる。

あばよ、いやな思い出。
さよーならだ。


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